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表情を変えなかった大沢を認め、フジイは言葉を続けた。

「一カ月前秋川クンに一目惚れした。

 んで、その後の進展はよく知らね。んで、先に上で見たふたり。

 だから実際どうなってるか。秋川クンはどうなのか。アンタはなにか聞いてるのか。

 もしなにか知ってたら教えて欲しかったんだ」

クリッとした目は真剣だった。

大沢はゆっくりコクリと頷いた。

「正直に言うと、ユキヒロが実際どうなのか分からない。

 ヤマトクンとのコトも知らない。

 誰かと今付き合ってるとも聞いてないし素振りもない。

 ただ、あんなユキヒロは初めて見た。

 あんな風に自分を素直に出してるというか、楽しそうに解放してる顔はね。

 ユキヒロはいつも自分を抑えてて普段あまり感情を面に出さないんだ。

 だからそれにまず驚いた。

 で、先のふたりのようすだろ?  

 で、現在進行中の驚き。この展開だ。だろ?」

ああ、とフジイは同意する。

「後を付けて来たのは、町で偶然見掛けて、

 いつものユキヒロとどこか違う雰囲気を感じたから、だろうな。

 確かにユキヒロは男からも手紙をもらったりする。

 でもタブンそういった付き合いは、今までないと思う。

 手紙とか出すヤツはいるけど、遠巻きに憧れてるだけで近づかない。

 いや近づけないのか……。

 ソッチは? 全然なにも聞いてないのか?」

「アイツは……、

 ハヤトは、訊いてもボチボチとか言ってニヤケてるだけなんだ……。

 取り合えず協力してやる、ってことになってんだけど、頼ってこない。

 ま、もともと他力本願なヤツじゃないけど。秋川クンとのコトはナンモ話さね。

 今日だって、アノヤロウ練習さぼってさっ」

「それってフジイ、オマエもってことだろ」

と、思わずツッコンで笑った。

「雨でも練習はあるんだ?」 と、大沢はカプチーノをまた一口すすった。

「雨は筋トレ。屋内走ったり、体力作り。

 インハイ予選が始まってさ、

 アイツもさすがにマジ追いこまなきゃいけないんだけどさっ」

フジイはフウッーと大きく溜め息を吐く。

「ここ一カ月、アイツ・・・、

 雨の日は授業終わると練習出ねえで、ソッコー帰ってく日があるんだ。

 雨の日はじいちゃんのリウマチが痛むんで帰りますとか、

 なんかワケ分かんないこと言っちゃってさ。

 ハヤト、じいちゃん子だからさ。まっそうかな、とも思ったさ。

 けど、続くとなんかやっぱヘンじゃん。

 先輩たちも怪しみ始めてさ。んで、今日尾行したんだ。

 んで、同じように付けてるらしいアンタに気付いたってワケ。

 しかし、まさか雨の日デートをしててくれちゃってたとはね。

 ヤラレタよ」

と肩を落とした。

ふーん、なるほど、そういうことか。大沢は目の奥に力が入る気がした。

どうやら今日曖昧にフラレタ理由は解明したようだ。

フジイは、しきりに「甘かったなあ」と舌打ちをする。

「ハヤトの告白聞いてすぐに秋川クンをこっそり見に行ったんだ。

 んで、安心したんだ。この王子はぜってハヤトなんか相手にしないって思ったモン。

 詐欺だよなあ」と口を尖らす。

「ったく油断したなあ。行動に出るのちょっと遅かったかなあ……。

 昨日今日じゃもう手遅れか。あのムードだモンなあ。

 まさか! もうデキテルとかあ?

 うっげえっーどうするよお」と、独り語ちて、両手で髪を掻き上げ頭を抱える。

「んにゃ。んなワケけない。だったらぜってハヤトは言うよな。

 ケド……、ああっ?、アレはかなりやべえよなあ。

 やべえよおお。いつもアンナ調子なんかな? 

 有名人同士すぐ噂になっちまうじゃねえかよ。

 やべくね? やべえって」

と大きな溜め息を一つ吐き、テーブルにひじを付いた両手で力なく顎を支える。

クルクル表情を変えて感情を素直に現すフジイの顔を、

大沢は面白そうにレンズの奥の目を瞠って追い掛けていた。

「フジイはふたりがうまくいくの、反対なんだ?」

「アタリマエだろー。マズイでしょ、男同士は。

 アンタは秋川クンがそうなってもいいワケ?」

「ああ。イイんじゃない。べつに。

 俺は男と恋に落ちた王子がどうなるか見てみたいけどね」
 
ニヤニヤする大沢に、

「アンタって、イイ性格してるね」とフジイは鼻に皺を寄せた。

そして、「あっそうだ」と、リュックのポケットを探る。

「ここまで話した以上さ、いろいろ世話になるかもしれないからさ、

ケータイ教えてくんないかなー」とケータイを取り出した。

おい世話すんのかよ、と大沢は心の中でツッコミながらも、

まっいいか、と自分のケータイをズボンのポケットから出しフジイへ投げた。

フジイをかなり気に入ったのだ。

フジイは「サンキュ」とナイスキャッチし、番号を入れて大沢に戻した。

そのまま通話ボタンを押すと、フジイのケータイから耳慣れないメロディが流れた。

「……しぶい趣味だな。……たしかフランスの国歌?だよな」

「あっ、うん。

 フランスナショナルチームのファンなんだ。

 オリジナルで打ち込んだんだぜ」

「ああなるほど。サッカーバカだな」

「筋金入ってるぜえ。あっと、大きいサンズイにシャクだよな」

フジイは着信番号を登録し、

大沢の名前を打ち込みながら遠慮がちに訊く。

「念のため、秋川クンのって教えてもらうワケにはいかないかな? やっぱダメ?」

「トウに井戸のイか? ああ、ユキヒロはケータイ持ってないよ。必要ないらしい。」

大沢も親指を動かしながら答えると、フジイは吹き出す。

「ハヤトと同じじゃん。

 アイツは小遣い減らされるならいらねって持たね。

 今どきケータイいらないっちゅう高校生ふたり、ってどうよ?」

「結構似た者同士でお似合いなんじゃないのか? 

 夏までにはデキテルかもな」

大沢はニヤッと顔を上げ、 藤井の名を登録し終わった電話機を閉じた。

そして、ふと真顔になる。

そうだった。と、大沢はある重要なことを、自分が放った言葉で思い出したのだ。

「彼は果たして知ってるのかな」と、気付かず口にしていた。

大沢のその言葉を藤井はしっかりと聞きとめたようだった。

今、外はまだ雨が降っているかのかどうか、このふたりには分からない。
  



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