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注文カウンターでドリンクを二ツ受け取ると、

学生、会社帰りのOLやサラリーマンらで込み合う狭い店内を、

ネコ科の動物を思わせるしなやかな動きでスルスルと抜けて、

カレは、二人掛けの丸テーブルにいる大沢の前の席に着いた。

「はい、オオサワクンの」と紙コップを手渡され、「どうも」と顔を上げる。

いかにも運動神経の良さそうな細身の身体の上に、

いかにも女の子にもてそうな華やかな顔が付いている。

幸宏の傍らにいた男の友人だという、「フジイユウヤ」と名乗った男。

彼に誘われ大沢は、同じビルの二階にあるコーヒーショップで、

彼とお茶スルことになったのだ。

人見知りはしない大沢だが、

初対面の人物が、いったいなんの目的で自分と話したがっているのか分からず、

口を閉ざしていた。

先の目を疑うような場面に関係があることは間違いないだろうが。

大沢がカプチーノに口を付けるのを検分するように見ていた彼は、

自分のアイス・ラ・テをストローですすった。

そして、

「で、オオサワタツヒコ、クンは、なんでクラスメートの後を付けてたワケ?」

と話を切り出した。

「そういうキミは? 

 俺が付けてたの知ってるってことは、

 キミも付けてたってこと、だろ?」 

大沢は問いには答えずニヤッとして返す。

「そーだな。聞きたいことがあるなら、まずコッチの手の内を見せないとな」

彼もニッと口の端を上げた。

「先のカレは香南のプリンス、秋川幸宏クン。

 だよね? 

 幼い時から能のウタやオドリを習ってるとか?」
 
大沢はメガネの奥の目でジッと彼の目を見据える。

「で、チマタの女子高生にアイドル的存在になってて」

 彼はそこで一度言葉を切り、ニッとして続けた。

「で、男にもモテちゃうワケだ」

大沢は見据えたまま無言でいる。

「で、オオサワクンは、先のふたりを見てどう思った?」

彼は大沢が答えるのを待たなかった。

「周りからスッゲエー浮いてるっちゅうかさ、

 ぜってえ、このふたりヤバイって思わなかった? 

 オレなんか恥ずかしくなっちゃってさ。

 アソコにいられなくなっちまった。

 オイオイヤメてくれよって感じ? でさー」

と、彼は不意にくだけた喋りになり、

親しげに大げさな苦笑いを浮かべて見せた。

コノ男も先の場面に困惑してるクチか。

同じように感じていた思いを先に率直に聞かせた、目の前の初対面の男に、

大沢は少し打ち解ける。

「ああ。俺も確かにこのふたりマズイなあって感じた。

 目のやり場に困ったというか、マイッタ。

 で、本人たちは、自分たちがいろいろな意味で目立っていること、

 全然分かってないだろ?」

「そう。自覚がねえ。

 マッタク、アイツってさ、

 人のことなんかワレ感知せずで、周り気にしないヤツでさ」

「ユキヒロはあのとおりの王子だから、周囲の目には疎いんだ」

大沢がそう言葉を継ぐと、互いに合わされた視線が緩む。

フッと口元をほころばせ、同時にドリンクに手を付けた。

一口飲んでから大沢はゆっくり尋ね返した。

「で、キミの友人は……、

 キミは彼とユキヒロとの関係を知ってるのか? 

 先のアブナいシーンは、実際のところ、どういうコトになるんだ?」

「あのバカデカイヤツは大和隼人ってんだけど……、

 ああ、もうぶっちゃけて言っちゃうとさ」

「えっ、ヤマトハヤト? 東城のヤマトって、サッカー部のヤマトか?」

聞き知った名前を言われ、思わず話を遮った。

「ああ、そうだけど」

「じゃあ、フジイって、キミ、もしかして東城サッカー部のフジイか?」

彼は不思議そうな顔をする。

「サッカーやってなくても名前は聞いたことあるさ。

 東城って県内ベスト4常連の強豪だろ。ここらの学校じゃ有名だ。

 ヤマトとフジイっていえば、東城の黄金コンビ、だろう?」

「へええ? オレらそんな有名なのかあ?」

彼は心底意外そうにつぶやく。クリッとし目をさらに丸くしてうれしそうだ。

「ふうーん。あのフジイだったのか」

大沢の人間ウオッチャー魂がよみがえってくる。

県内のサッカー名門校として名を馳せる東城高校サッカー部で、

一年からレギュラーになった、「ヤマトとフジイ」

を知ってる者はこの近辺の高校では多い。

ゲームメークするヤマトと点取り屋のフジイ。

息の合った絶妙の連携プレーで黄金コンビと呼ばれる。

中二からふたりそろって県中学選抜メンバーになったという、

いわゆる地元のプチ・スター的存在だ。

強面硬派のヤマトとジャニーズ系軟派のフジイという噂だが……、

ま、容姿は当たってるよな、

と大沢は薄青いレンズの下からフジイを観察する。

「バカ。今更マジマジ見んなよ」と、

フジイは上目遣いで睨んで頭を掻いた。

僅かに顔を赤くし照れる感じはなかなか悪くないな。

と思ったところで、

大沢は、最初に彼に抱いた印象が違ってきていることに気付く。

カプチーノを一口飲んで、

「ああ、ごめん。でフジイ、続きなんだっけ?」 と、話を戻した。

「えっと、ああ、ハヤトは、うん……」

口をつぐんだので、 「なんだよ、先は言い掛けたじゃないか」と大沢は促す。

「先はつい話の勢いだ、よ。

 ま、アンタもオレと同じような立場みたいだしな、……話すっかな」

フジイは紙コップのフタに挿したストローに目を置き、

クルクルと回してから意を決したように大沢に目を戻した。

「ハヤト、アンタントコの王子に、恋してんだ」




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