
3
注文カウンターでドリンクを二ツ受け取ると、
学生、会社帰りのOLやサラリーマンらで込み合う狭い店内を、
ネコ科の動物を思わせるしなやかな動きでスルスルと抜けて、
カレは、二人掛けの丸テーブルにいる大沢の前の席に着いた。
「はい、オオサワクンの」と紙コップを手渡され、「どうも」と顔を上げる。
いかにも運動神経の良さそうな細身の身体の上に、
いかにも女の子にもてそうな華やかな顔が付いている。
幸宏の傍らにいた男の友人だという、「フジイユウヤ」と名乗った男。
彼に誘われ大沢は、同じビルの二階にあるコーヒーショップで、
彼とお茶スルことになったのだ。
人見知りはしない大沢だが、
初対面の人物が、いったいなんの目的で自分と話したがっているのか分からず、
口を閉ざしていた。
先の目を疑うような場面に関係があることは間違いないだろうが。
大沢がカプチーノに口を付けるのを検分するように見ていた彼は、
自分のアイス・ラ・テをストローですすった。
そして、
「で、オオサワタツヒコ、クンは、なんでクラスメートの後を付けてたワケ?」
と話を切り出した。
「そういうキミは?
俺が付けてたの知ってるってことは、
キミも付けてたってこと、だろ?」
大沢は問いには答えずニヤッとして返す。
「そーだな。聞きたいことがあるなら、まずコッチの手の内を見せないとな」
彼もニッと口の端を上げた。
「先のカレは香南のプリンス、秋川幸宏クン。
だよね?
幼い時から能のウタやオドリを習ってるとか?」
大沢はメガネの奥の目でジッと彼の目を見据える。
「で、チマタの女子高生にアイドル的存在になってて」
彼はそこで一度言葉を切り、ニッとして続けた。
「で、男にもモテちゃうワケだ」
大沢は見据えたまま無言でいる。
「で、オオサワクンは、先のふたりを見てどう思った?」
彼は大沢が答えるのを待たなかった。
「周りからスッゲエー浮いてるっちゅうかさ、
ぜってえ、このふたりヤバイって思わなかった?
オレなんか恥ずかしくなっちゃってさ。
アソコにいられなくなっちまった。
オイオイヤメてくれよって感じ? でさー」
と、彼は不意にくだけた喋りになり、
親しげに大げさな苦笑いを浮かべて見せた。
コノ男も先の場面に困惑してるクチか。
同じように感じていた思いを先に率直に聞かせた、目の前の初対面の男に、
大沢は少し打ち解ける。
「ああ。俺も確かにこのふたりマズイなあって感じた。
目のやり場に困ったというか、マイッタ。
で、本人たちは、自分たちがいろいろな意味で目立っていること、
全然分かってないだろ?」
「そう。自覚がねえ。
マッタク、アイツってさ、
人のことなんかワレ感知せずで、周り気にしないヤツでさ」
「ユキヒロはあのとおりの王子だから、周囲の目には疎いんだ」
大沢がそう言葉を継ぐと、互いに合わされた視線が緩む。
フッと口元をほころばせ、同時にドリンクに手を付けた。
一口飲んでから大沢はゆっくり尋ね返した。
「で、キミの友人は……、
キミは彼とユキヒロとの関係を知ってるのか?
先のアブナいシーンは、実際のところ、どういうコトになるんだ?」
「あのバカデカイヤツは大和隼人ってんだけど……、
ああ、もうぶっちゃけて言っちゃうとさ」
「えっ、ヤマトハヤト? 東城のヤマトって、サッカー部のヤマトか?」
聞き知った名前を言われ、思わず話を遮った。
「ああ、そうだけど」
「じゃあ、フジイって、キミ、もしかして東城サッカー部のフジイか?」
彼は不思議そうな顔をする。
「サッカーやってなくても名前は聞いたことあるさ。
東城って県内ベスト4常連の強豪だろ。ここらの学校じゃ有名だ。
ヤマトとフジイっていえば、東城の黄金コンビ、だろう?」
「へええ? オレらそんな有名なのかあ?」
彼は心底意外そうにつぶやく。クリッとし目をさらに丸くしてうれしそうだ。
「ふうーん。あのフジイだったのか」
大沢の人間ウオッチャー魂がよみがえってくる。
県内のサッカー名門校として名を馳せる東城高校サッカー部で、
一年からレギュラーになった、「ヤマトとフジイ」
を知ってる者はこの近辺の高校では多い。
ゲームメークするヤマトと点取り屋のフジイ。
息の合った絶妙の連携プレーで黄金コンビと呼ばれる。
中二からふたりそろって県中学選抜メンバーになったという、
いわゆる地元のプチ・スター的存在だ。
強面硬派のヤマトとジャニーズ系軟派のフジイという噂だが……、
ま、容姿は当たってるよな、
と大沢は薄青いレンズの下からフジイを観察する。
「バカ。今更マジマジ見んなよ」と、
フジイは上目遣いで睨んで頭を掻いた。
僅かに顔を赤くし照れる感じはなかなか悪くないな。
と思ったところで、
大沢は、最初に彼に抱いた印象が違ってきていることに気付く。
カプチーノを一口飲んで、
「ああ、ごめん。でフジイ、続きなんだっけ?」 と、話を戻した。
「えっと、ああ、ハヤトは、うん……」
口をつぐんだので、 「なんだよ、先は言い掛けたじゃないか」と大沢は促す。
「先はつい話の勢いだ、よ。
ま、アンタもオレと同じような立場みたいだしな、……話すっかな」
フジイは紙コップのフタに挿したストローに目を置き、
クルクルと回してから意を決したように大沢に目を戻した。
「ハヤト、アンタントコの王子に、恋してんだ」
Copyright (C)grisgrisblanc 2008



